概要
算定例の第2弾として、環境省の提供している勉強会の資料を基に製造業で広く行われている部品・サービス調達に伴う排出量(カテゴリ1)を例に取り上げます。
今回とりあげる自動車工場ではサプライチェーンをプロセス毎に分解すると以下のような図を描くことが出来ます。
これらのプロセスは以下のように分類することが出来ます。
Scope1およびScope2
- 自社グループ企業からのエンジン調達
- 横持物流
- 自社での車の組立(親会社組み立てメーカー)
- 出荷物流
Scope3のカテゴリ1
- エンジンの材料となるシャフトの調達
- エンジンの材料となるシリンダの調達
- タイヤの調達
- ・・・
Scope3のカテゴリ4
- グループ外輸送業者による輸送
*Cradle to GateとはLCA(ライフサイクルアセスメント)において、いわゆるサプライヤーからの部品調達のことを指しており、原材料採取、原材料の輸送そして製造工程までの環境負荷を評価対象とするが、製品の使用や廃棄は考慮しないということを意味しています。この他、Gate to Gate(製品の製造工程のみが対象)やCradle to Grave(原材料の採取から廃棄までの全てが対象)などの範囲の分け方があります。
以下ではScope3のカテゴリ1の算定について取り上げます。
算定
算定するには原材料を含めてすべての部品サプライヤーから排出量の情報を提供して貰ったり、カーボンフットプリントを使って足し上げる必要がありますが、簡易算定方法として2つの方法があるので今回はこれについて解説します。
タイプ1:自社の部品の調達量(金額や数量、重量)を用いて算定
タイプ2:部品が使用している素材の使用量を用いて算定
タイプ1での算定
自社が1年間に調達している部品を以下のように書き出します。この時点では購入量は重量にしておきます。
調達品目 | 購入量 | 排出原単位 | 原単位の出展 | 排出量 |
シャフト | 4000トン | ? | ? | ? |
シリンダー | 1000トン | ? | ? | ? |
タイヤ | 20000トン | ? | ? | ? |
・・・ |
この時、繰り返しになりますが、排出原単位やカーボンフットプリントをサプライヤーから提供を受けることが出来ていれば、表を埋めて正確な算定を進めることが出来ます。一方で、提供を受けられない場合にはどうすればよいのでしょうか?その場合は部品の数や金額ベースでまとめられているデータベース(二次データ)を活用することになります。ただし、データベースにはシャフトのように詳細な部品の情報がなく、自動車部品と言ったより広い品目を使わなければならない場合があり、その場合には算定が正確でなくなることに注意してください。
資料を参考にすると以下のように排出原単位を得ることが出来ます。
- シャフト:4.72 tCO2/百万円(SC-DB [5産連表DB] No.251「⾃動⾞部品」)
- シリンダー:0.918 tCO2/台(SC-DB [5産連表DB] No.250「⾃動⾞⽤内燃機関・同部分品」)
- タイヤ:7.14 tCO2/百万円(SC-DB [5産連表DB] No.139「タイヤ・チューブ」)
以上の値と値の単位に応じて調達した部品の単位を変換することで、表を埋めてみると以下のようになります。
調達品目 | 購入量 | 購入量を別単位にしたもの | 排出原単位 | 原単位の出展 | 排出量 |
シャフト | 4000トン | 2000百万円 | 4.72 tCO2/百万円 | SC-DB 5産連表DB ⾃動⾞部品 | 9440トン |
シリンダー | 1000トン | 100000台 | 0.918 tCO2/台 | SC-DB 5産連表DB ⾃動⾞⽤内燃機関・同部分品 | 91800トン |
タイヤ | 20000トン | 30000百万円 | 7.14 tCO2/百万円 | SC-DB 5産連表DB タイヤ・チューブ | 214200トン |
・・・ |
このように二次データを活用することで簡易算定を行うことが可能です。
タイプ2での算定
調達した部品に使用している鉄、合成ゴムなどの素材に分けて計算する方法です。この方法の場合、素材を製造するための排出量やサプライヤーが素材を加工して製品する際の排出量を別途算定して提供してもらった上で、足し上げる必要があります。また、製造時の歩留まりなど製造する際の排出量に影響する値も加味する必要があります。
調達品目 | 製品あたりの素材使用量 | 歩留 | 製品の出荷量 | 素材製造時の排出原単位 | 素材製造時の排出原単位の出展 | 加工時の 排出原単位 | 加工時の 原単位の出展 | 排出量 |
鉄(シャフト用) | 32kg | 80% | 100000台 | ?tCO2/kg | データベース | ? tCO2/kg | サプライヤーより入手 | ?トン |
鉄(シリンダー用) | 9kg | 90% | 100000台 | ?tCO2/kg | データベース | ?tCO2/kg | サプライヤーより入手 | ?トン |
合成ゴム(タイヤ用) | 170kg | 85% | 100000台 | ?tCO2/kg | データベース | ?tCO2/kg | サプライヤーより入手 | ?トン |
・・・ |
以上のように直接取得したデータ(一次データ)とデータベース(二次データ)を組み合わせて排出量を算定することが出来ます。
まとめ
今回は製造業の中で自動車工場をサンプルにした算定例からカテゴリ1部品調達を取り上げて解説しました。今回のケースのように部品固有の排出原単位が正確にわからない場合も、標準的な部品の排出原単位や素材の量へ戻すことで算定が可能となっていますが、今後はより正確な算定を行うことが要求されると考えられるため、自社の使用している部品の排出量をより正確に把握することが重要になってくると考えられます。
assimeeは、製造プロセスや物流プロセスをモデル化し、シミュレーション結果を活用して、現実に即したサプライチェーンの排出量を正確に算定することが可能です。近年では、生産技術の担当範囲が拡大しており、カーボンニュートラルに向けた排出量の算定業務も生産技術が担当するケースが増加しています。このように業務増加によって、負担が大きくなっている担当者様、複雑な算定業務でお悩みの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。