概要
カーボンネガティブ(Carbon Negative)とは、人類活動によって大気中に放出される二酸化炭素(CO2)などの地球温暖化の主因とされる温室効果ガスの量よりも、大気中から除去される温室効果ガスの量が上回っている状態を指します。これは、カーボンニュートラル(排出量と吸収量が等しい状態)を一歩進めた概念です。
産業革命以降に人類が排出し、大気中に蓄積されてきた温室効果ガス(特にCO2)を削減するには排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」「ネットゼロ」だけでは不十分です。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告でも、1.5℃目標(産業革命以前と比べて2050年の気温上昇を1.5℃以下に抑える)の実現にはCO2除去(CDR:Carbon Dioxide Removal)技術の活用し、大気中からCO2を積極的に除去する「カーボンネガティブ」な取り組みが不可欠とされています。
カーボンネガティブを達成するための方法
カーボンネガティブを実現する方法は、大きく分けて次の2つのカテゴリに分類できます。
- 自然由来の炭素除去
- 人為的な炭素除去
人為的な炭素除去はさらに2つに分けられます。
- 炭素の固定
- 炭素の素材化と固定利用
それぞれについてどういった方法があるのかを簡単に解説していきます。
自然由来の炭素除去(Nature-based Solutions)
森林・土壌・海洋など、自然のCO2の吸収機構を活用してCO2を除去・固定する手法です。
主な方法として、以下の方法があります。
- 森林吸収:植林・再植林・森林保全による炭素吸収
- 土壌炭素隔離:土壌中の有機炭素量を増やすことによる炭素吸収
- ブルーカーボン:マングローブや海草など海洋生態系による炭素吸収
これらの方法のメリットとデメリット、リスクは以下の通りです。
メリット
- 比較的低コスト
- 技術的な障壁が低い
デメリット
- 農地などとの土地利用の競合
- 長期的な保全管理が必要
リスク
- 気候変動の影響(山火事・干ばつ)による森林の吸収力低下
- 海水温上昇による海洋の吸収力低下
人為的な炭素除去(CDR:Carbon Dioxide Removal)
人為的に大気中などからCO2を回収し、鉱山跡など地下空間に密封することで、安定的に固定する技術のことです。
主な方法:
- BECCS(Bio-Energy with Carbon Capture and Storage)
バイオマス発電によって発生するCO2を回収・地下貯留する方法です。成長時にCO2を吸収した植物を燃焼させ、排出分を封じ込めるため理論的にはマイナス排出が可能です。 - DAC(Direct Air Capture)
空気中から直接CO2を分離・回収し、地中貯留または素材化します。
メリット
- CO2を永久に除去できる可能性
- 工学的に制御可能でスケールも調整しやすい
デメリット
- 高コスト・エネルギー需要大
- CO2を増やさないため再生可能エネルギーとの併用が前提条件
炭素の素材化と固定利用
人為的な炭素除去の回収したCO2を、建材・燃料・鉱物として物理的に固定化する方法です。
主な方法:
- CO2鉱物化(Carbon Mineralization):
CO2をマグネシウムやカルシウム含有鉱物と反応させて、炭酸塩として物質的に安定化し、地中での“漏れない固定化”に活用 - CO2建材化:
コンクリート製造時にCO2を注入・反応させて強度を高めつつ固定 - CO2を原料とする合成燃料(e-fuel)や化学品の製造
特徴:
- 工業プロセスに組み込める点が魅力
- 一部製品は再びCO2を排出する可能性があり、製品のライフサイクル評価(LCA)が重要
日本におけるカーボンネガティブ展開の可能性と課題
日本がカーボンネガティブ展開を行う上で有利な点
自然資源の活用
- 国土の森林率が約70%と先進国では最大級で、CO2の森林吸収量のさらなる強化が可能(例:間伐促進、人工林の更新)
- 経済水域が広大な海洋国家であり、ブルーカーボンの活用が可能:藻場や干潟、マングローブ、珊瑚礁などの回復・保全によるCO2吸収
日本における課題
土地・エネルギーの制約
- DACやBECCSには広い用地と再エネ電力が必要
- 再生可能エネルギーの発電コストや送電網の整備に課題
地下貯留地の制限
- 地層へのCO2貯留には地質条件が必要。日本は地震多発国のため、適地が限られている
制度・市場整備の遅れ
- CO2除去に特化したクレジット制度や、「カーボンネガティブ」という概念自体の政策反映が不十分
- 排出削減を重視した枠組み中心で、ネガティブへのインセンティブが不足
まとめ
カーボンネガティブは、「削減の先にある解決策」として今後の気候変動対策において極めて重要な概念です。
特に2050年までにカーボンニュートラルを達成したとしても、長期的な気候安定を目指すには、排出ゼロではなく“排出マイナス”が必要とされる時代が訪れていると考えられます。