概要
カーボン・クレジットは、CO2などの温室効果ガスの排出削減量や吸収量を「クレジット」という形で取引する仕組みです。すでに解説したカーボン・オフセットにおいて、自社が削減しきれない温室効果ガス(GHG)の排出量を、他者が実施した環境保護・GHG削減プロジェクトの成果であるカーボン・クレジットを購入することで、穴埋めし相殺する仕組みとなっています。この記事ではカーボン・クレジットによる排出量相殺の仕組み、取引の仕組みについて解説します。
参考資料:
カーボン・クレジット・レポート、2022年、経済産業省
炭素クレジット等について、2022年、環境省
カーボン・クレジットの仕組み
カーボン・クレジットの2つの制度
カーボン・クレジットには主に「ベースライン&クレジット制度(削減量取引)」と「キャップ&トレード制度(排出権取引)」の2種類があります。
ベースライン&クレジット制度
GHGの削減量を取引する制度です。自社のGHG排出量が削減によって見通しを下回った場合、森林管理や省エネ技術開発などの様々なプロジェクトの結果、削減されたGHGの量をクレジットとして認証してもらい、市場で取引します。日本で言われているカーボン・クレジットはこの形式のJ-クレジット(コンプライアンス・クレジット)と、後述するJCM(2国間クレジット制度)に基づくクレジットとなります。
キャップ&トレード制度
GHG排出権を取引する制度です。事業所ごとに割り当てられた排出枠(キャップ制)に対して、排出量を削減により余った分の排出枠を、クレジットとして相対取引や市場取引をします。また、ベースライン&クレジット制度に基づくクレジットを一定の条件下でキャップ制の排出枠(クレジット)として使用することが認められています。
非化石証書やグーリン電力証書
カーボン・クレジットとは直接関係ありませんが、環境価値について発行される証書に非化石証書やグリーン電力証書があります。これは再生可能エネルギー(風力、太陽光、水力など)を発電する事業者が、発電した電力に対して発行される証書です。電力自体は通常の電力網を通じて供給されますが、消費者(企業や個人)は、この証書を購入することで、自ら使用した電力が再生可能エネルギー由来であるとみなされ排出量の相殺に活用できます。
- 非化石証書
資源エネルギー庁がFIT再エネ指定・非FIT再エネ指定・非FIT指定なしの環境価値に対して発行しています。購入対象は小売電力事業者のみ - グリーン電力証書
日本では一般財団法人 日本品質保証機構(JQA)が発行事業者との相対取引で発行しています。
カーボン・クレジットの認証制度(発行と使用)
カーボン・クレジットには国際的な認証機関による認証と、国内の認証機関による認証、民間の認証機関による認証の3種類が存在します。クレジットの認証はISO14064やISO14065に基づいて行われています。表にまとめると以下のようになります。
国内のカーボン・クレジット制度 | |
J-クレジット | 経済産業省・環境省・農林水産省が制度管理者となり、2013年より運営されているカーボン・クレジット制度(コンプライアンス・クレジット)。省エネ・再エネ・森林等を対象に幅広くカーボン・クレジットを認証 |
J ブルークレジット | ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBEが制度管理者となり、2020年よりブルーカーボンに特化して認証を行っている国内ボランタリークレジット制度 *ブルーカーボンとは沿岸・海洋生態系に取り込まれ、バイオマスやその下の土壌に蓄積される炭素のことを指します。 |
国外のカーボン・クレジット制度 | |
Clean Development Mechanism(CDM) | 京都議定書において、先進国(付属書Ⅰ国)と途上国(非付属書Ⅰ国)が共同で排出削減プロジェクトを途上国で実施し、その排出削減量を移転することにより、投資国(先進国)が自国の目標達成に利用できる国連主導のカーボン・クレジット制度 |
二国間クレジット制度(Joint Crediting Mechanism (JCM)) | 途上国等(JCMに関する二国間文書に署名したパートナー国)への優れた脱炭素技術、製品、システム、サービス、インフラ等の普及や対策を通じ、実現した温室効果ガス排出削減・炭素吸収・炭素除去への我が国の貢献を定量的に評価するとともに、我が国のNDCの達成に活用する制度 |
海外のボランタリークレジット | |
Verified Carbon Standard (VCS) | WBCSD(World Business Council For Sustainable Development)やIETA(International Emissions Trading Association)などの民間企業が参加している団体が、2005年に設立した認証基準・制度。森林や土地利用に関連するプロジェクト(REDD+を含む)や湿地保全による排出削減プロジェクトなど多様なプロジェクトが実施されている |
Gold Standard(GS) | 2003年にWWF(World Wide Fund for Nature)等の国際的な環境 NGO が設立した認証基準・制度。 自ら VER(Verified Emission Reductions)を発行するだけではなく、CDM プロジェクトの中でも、地元共同体への貢献などの付随的な便益を有すると見なされたプロジェクトについては、GS が認証する取組みを行なっている |
American Carbon Registry (ACR) | NPO法人であるWinrock Internationalが1996年に設立した世界初の民間クレジット認証基準・制度 |
Climate Action Reserve (CAR) | 2001年に創設されたCalifornia Climate Action Registryを起源に持つ認証基準・制度 |
認証の結果、カーボン・クレジットが発行されます。発行されたカーボン・クレジットは使用の際に「無効化通知書」が発行され、これをもって初めて使われた(無効化された)ことになります。
カーボン・クレジットの取引
カーボン・クレジットは発行された制度に応じた仕組みを使って市場で取引されています。
- 法規制市場
政府の規制(キャップ制)の下で取引される市場で、制度には欧州のEU-ETS(EU排出量取引制度)、アメリカのカルフォルニア州排出量取引制度、中国の全国排出量取引制度などがあります。
日本ではGX-ETSとして制度設計が行われています。
実際の排出権の取引は相対取引の他、EEX(European Energy Exchange)やICE(International Exchange)といった民間の取引所を介しておこなわれます。 - ボランタリー市場
民間セクターにおいて自発的に認証と発行の制度が整えられているカーボン・クレジット(ボランタリークレジット)や政府が認証を行うコンプライアンス・クレジットなど、さまざまなカーボン・クレジットの取引を行う市場です。企業や団体がESG目標やCSR活動を達成するため、上述のETS制度に基づく排出枠の穴埋めに活用されています。
主なボランタリークレジットには前述のVCS(Verified Carbon Standard)、GS(Gold Standard)、ACR(American Carbon Registry)、CAR(Climate Action Reserve)などがあり、これらを取引するCBL market(環境勝取引所)やNYMEX、CIX(Climate Impact X)などの民間取引所があります。
日本ではJPX(日本取引所)がカーボン・クレジット市場を開設していますが、取引できるのはコンプライアンス・クレジットであるJ-クレジットのみとなっています。
日本のカーボン・クレジット取引制度
J-クレジット
国内のカーボン・クレジット制度と、オフセット・クレジット(J-VER)が統合した制度で、経済産業省、環境、農林水産省が運営するコンプライアンス・クレジットです。
地方自治体によるカーボン・クレジット取引
東京都排出量取引制度や埼玉県排出量取引制度などが運営されています。
まとめ
この記事ではカーボン・クレジットについて簡単に解説しました。現在日本ではキャップ制が行われていないため、現状では企業にクレジットを取引する義務はありませんが、今後の規制の強化によりキャップ制(GX-ETS)が導入が予定されている他、企業のESG目標、CSR活動といった環境保護に対する社会の見方がより厳しくなることが予想されるため、カーボン・クレジット導入の前提となる、自社のGHG排出量の算定が重要となってくると考えられます。
assimeeは、製造プロセスや物流プロセスをモデル化し、シミュレーション結果を活用して、現実に即したサプライチェーンの排出量を正確に算定することが可能です。近年では、生産技術の担当範囲が拡大しており、カーボンニュートラルに向けた排出量の算定業務も生産技術が担当するケースが増加しています。このように業務増加によって、負担が大きくなっている担当者様、複雑な算定業務でお悩みの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。