概要
製造・物流現場では、人手不足への対応や作業の自動化を目的として、ロボットや自律搬送機などのフィジカルAIの導入を検討する事例が増えています。フィジカルAIとは、AIによる認識や判断を利用しながら、ロボットや搬送機などの実体を持つ機器が現実空間で作業を行う仕組みを指しています。従来の自動化設備と比べて、周囲の状況を認識しながら柔軟に動作できることが期待されています。
一方で、実際の製造・物流現場へ導入するためには、
- 人と同じ作業速度を実現できるか
- 必要な精度で作業を継続できるか
- 作業に失敗した場合、生産全体へどの程度影響するか
- 人を完全に置き換えられるのか、それとも一部の補助にとどめるべきか
といった点を事前に検証する必要があります。特に重要となるのが、作業の成功率です。人が行っている作業をロボットへ置き換える場合、処理速度だけが同じでも、一定の割合で作業に失敗するのであれば、生産量や設備稼働率に影響が生じる可能性があります。そこで今回は、生産ラインにおける部品搬送作業をフィジカルAI搭載の搬送機へ置き換えることを想定し、assimeeを用いて導入効果を事前に検証する方法を解説します。
モデル
今回用意したモデルは、入荷した部品を複数の加工機へ搬送し、加工後に次工程へ送る製造ラインで、以下の図のようになっています。

現在のラインでは、部品の搬送を作業員が担当しています。搬送作業は全部で3箇所あり、それぞれ、
- 到着品置き場から加工機Aへの搬送
- 加工A終了後置き場から加工機Bへの搬送
- 加工B終了後置き場から加工機Cへの搬送
を人が行っているものとします。今回は、この3箇所すべての搬送作業を、フィジカルAIを搭載した搬送機へ置き換えることを考えます。
人とフィジカルAIの違いをどうモデル化するか
前提条件として、人による搬送では、対象物を正しく搬送できる確率を100%として扱います。一方、フィジカルAI搭載の搬送機では、現実には必ずしもすべての作業が成功するとは限りません。
例えば、
- 対象物を正しく把持できない
- 部品の向きを認識できない
- 障害物を検知して停止する
- 搬送経路を確保できない
- 一時的な認識エラーが発生する
といった理由で、搬送に失敗する可能性があります。
そこで今回は、フィジカルAIによる搬送について、
95%の確率で成功し、5%の確率で失敗するという条件を設定します。失敗した場合には、その搬送作業は再度実行されるものとします。この条件をモデルへ組み込むことで、「搬送成功率95%のフィジカルAIで、人の搬送作業を代替した場合、生産量にどの程度影響するか」を検証できます。
比較する条件
今回のシミュレーションでは、少なくとも次の2つの条件を比較すると分かりやすくなります。
条件A:人による搬送
- 搬送成功率:100%
- 現在のラインを想定
条件B:フィジカルAIによる搬送
- 搬送成功率:95%
- 失敗した場合は再搬送
- 3箇所すべての搬送作業を自動化
この2つを比較することで、人をフィジカルAIへ置き換えた場合の影響を確認します。
今回は行いませんが、assimeeを使えば必要に応じて、
- 成功率90%
- 成功率95%
- 成功率98%
- 成功率99%
- 成功率100%
など複数の条件を用意することもできます。
シミュレーション結果
シミュレーションを実行し、人による搬送とフィジカルAIによる搬送の結果を比較します。ここでは、
- 最終的な生産数
- 搬送回数
- 搬送失敗回数
- 各工程の待機時間
- 加工設備の稼働率
などを確認します。


生産数は人の場合で936個、フィジカルAIの場合で872個と64個の差が出ました。これは約7%の生産減少に当たります。
また、フィジカルAIによる搬送で失敗が発生すると、再度搬送を行う必要があります。そのため、単純に搬送作業だけを見ると5%の失敗であっても、その影響が後工程へ伝わり、
- 加工機へ部品が届かず待機する
- 次工程への供給が遅れる
- ライン全体の生産量が低下する
といった現象が発生する可能性があります。以下の図からは、影響が後工程へ伝わり、加工機での処理数が減少することがわかります。


このように、今回の導入想定では約7%の生産減少となりました。この数字が受容できるかは経営上の判断となります。
それではフィジカルAIによる代替は無理ということなのでしょうか?今回の想定では搬送時間をフィジカルAIと人で同一としましたが、仮にフィジカルAIによる搬送作業が人よりも高速であり、一定の失敗が発生しても最終的な生産量で人による作業を上回ことができる可能性もあります。このように、フィジカルAIの性能は成功率だけで評価するのではなく、生産ライン全体への影響として評価することが重要です。assimeeを使えば、現場の複雑な条件を簡単に設定・変更することができるのでこのような検証作業を容易に行うことができます。
シミュレーションによる事前検証のメリット
フィジカルAIの導入では、実機を購入してから現場で検証や学習を行うと、設備費用やライン停止など大きなコストが発生します。そこで、導入前にシミュレーションでの検証を行うことで、
- 必要な成功率
- 必要な搬送速度
- 必要な台数
- 失敗時の影響
- 人との役割分担
などを事前に整理できます。特に、「性能がどの位なら投資効果が出るのか」という形で性能要件を定量化できれば、フィジカルAI機器の選定や導入判断もしやすくなります。
まとめ
今回の記事では、製造ラインで人が担当している搬送作業をフィジカルAI搭載の搬送機へ置き換えることを想定し、その導入効果をassimeeで事前に検証する方法を紹介しました。フィジカルAIを現場へ導入する際には、単に「動くかどうか」だけではなく、
- 作業成功率
- 搬送時間
- 失敗時の再処理
- 後工程への影響
- 最終的な生産量
まで含めて評価する必要があります。
assimeeを活用することで、実際の設備を導入する前に性能や稼働条件をシミュレーションし、どの程度の性能であれば人を代替できるのかを定量的に検証することが可能です。
また、今回使用した成功率だけでなく、
- 搬送速度
- 台数
- 人との協働条件
- 稼働時間
- 失敗からの復旧時間
など現場に応じた条件を設定することで、完全自動化だけではなく、人とフィジカルAIを組み合わせるなど、最適な運用方法の検討もできます。
assimeeでは、実際の製造プロセスをモデル化し、シミュレーションすることで、プロセスの見える化や潜在的な課題の洗い出しを行うことができます。製造プロセスのデジタル化や課題解決でお悩みの方は、ぜひお問い合わせください。