サプライチェーン排出量の算定例(Scope3)その2

前回の記事に引き続き、サプライチェーン排出量(Scope3)のカテゴリ9以降の解説を行います。

カテゴリ9 輸送、配送(下流)

カテゴリ9では自社が販売した製品の最終消費地までの物流(輸送、荷役、保管、販売)に伴う排出を算定します。また、カテゴリ4と同様に自家物流や自社施設での排出は算定対象から除きます。また、輸送費用を払って輸送を発注している場合はカテゴリ4で算定します(以下の図の通り)。


全ての業種や事業者で末端の消費者までの流通を把握することが困難な場合は、以下の図の点線で囲った部分のように算定対象を限定することになります。

ア 自社が材料・部品生産工場を有する場合

生産された素材を自社の生産工場から顧客の素材加工工場まで輸送するプロセス、途中の倉庫での保管や荷役が算定対象となります。素材加工工場での加工は算定対象になりません。

イ 自社が最終製品の製造・加工工場を有する場合

生産された製品を自社の工場から販売店や購入者まで輸送するプロセスが算定対象となります。
具体的には以下のようになります。
1.製造加工工場から(倉庫を経由して)販売店までの輸送
2.倉庫での保管や荷役
3.製造・加工工場から購入者間の直通配送
4.加えて販売店での販売(販売店からのデータ提供が前提)
また、販売店から消費者への配送が一般的と考えられる製品(大型家電製品等)については、販売店から(倉庫を経由して)購入者までの輸送、倉庫での保管や荷役が算定対象となります。

ウ 自社が販売店を有する場合(無店舗販売の事業者を含む)

自社が仕入れて販売している商品を「購入者」まで輸送するプロセスを算定対象とします。
具体的な算定範囲は以下のようになります。
1.販売店から倉庫・物流拠点を経て購入者間の輸送
2.倉庫での保管・荷役
3.販売店での販売
無店舗販売の場合、自社が商品の所有権を獲得してから購入者に届けるまでの物流が算定対象となります。例えば、自社物流センターで調達先から所有権の移転がある場合は、自社の物流センターから購入者までの物流が算定対象になります。

※帰り便の取扱(ア~ウ共通)
帰り便の空輸送については所有権がなくとも、以下の条件を満たす場合に算定対象になります。
・輸送事業者と期間単位で車建て(荷物当たりではなく車当たりでの輸送)契約をしている
・車建てで輸送区間ごとに契約しているが契約形態から見て他者の貨物輸送を行うことが実質的に不可能な場合

カテゴリ4と同様に輸送や拠点での保管に分けて算定をおこないます。

輸送

輸送の算定方法は以下の3つの方法があります。

  1. 燃料法 燃料使用量を活動量として算定する方法
  2. 燃費法 輸送距離と燃費から割り出した燃料使用量を活動量として算定する方法
  3. トンキロ法 輸送量(トン)と輸送距離(キロメートル)を掛けたものをトンキロと呼び、トンキロ当たりの燃料使用量を活動量としてを算定する方法
    *トラックの種類や積載率を考慮できる方法だが、空荷になる復路は算定できない。

鉄道輸送など荷主による按分をする必要がある場合は、トンキロ法で算定するのが通常です。他にとりうる方法がない場合は貨物の重量比率や料金を使用する場合があります。

拠点

拠点での荷役、保管、販売は対象となる拠点のエネルギー使用(照明、空調、コンベヤー等)に伴う排出量を合算します。ここで言う拠点とは自社への輸送のために経由する拠点のことで、自社の拠点の場合はScope1や2で算定します。
また、複数の荷主と共有する拠点の場合には按分が必要となります。案分の方法は以下の4つの方法があります。

カテゴリ10 販売した製品の加工

自社で製造した中間製品が自社の下流側の自社以外の事業者で加工し最終製品を製造する際に排出される排出量を算定対象とします。つまり中間製品を加工する事業者のScope1と2の排出量の合計をカテゴリ10の排出量として算定します。出荷した中間製品がどのように使用されているかを把握できない場合に、以下のような除外に関する判断基準を基に算定対象から外すことも可能です。

  • 規模:Scope3排出量に対する割合が大きい場合には除外不可
  • 影響:サプライチェーンの各事業者(上下流の事業者)の排出削減に貢献する可能性のある製品については優先的に算定する
  • リスク:事業者のリスク開示に影響を与える場合には算定対象からの除外不可
  • ステークホルダー:主要なステークホルダーからの算定要求があった場合には除外不可
  • アウトソーシング:以前は社内で行っていた活動であるが現在は外部委託している活動、同業他者においては自社で行っている活動であるが報告事業者においては外部委託している活動については、除外不可
  • 業種別解説:業種別解説において重要であると規定されている活動は除外不可
  • その他:事業者またはセクターにおいて重要であると判断した活動については除外不可

算定方法については以下のような方法があります。

販売先から中間製品の加工に伴う排出量そのもののデータや、中間製品の加工に伴うエネルギー消費量のデータが入手できる場合は、データを基にして算出します。
データが入手できない場合は中間製品の販売量を活動量として加工量辺りの原単位を使用して算出します。

なお、下流の事業者で複数の中間製品を使用して最終製品を加工している場合には、中間製品間で排出量を按分することを考えてください。按分に用いるデータは重量、体積、金額などが考えられます。

カテゴリ11 販売した製品の使用

自社の製品の使用に伴う排出量を算定対象とします。対象とする製品は、算定対象とする年度に販売した製品(システムやサービスを含む)となります。
また、カテゴリ11に含まれる排出量は以下の2つに区分されます。

  • 直接使用段階排出
    ・家電製品等、製品使用時における電気・燃料・熱の使用に伴うエネルギー起源のCO2排出量
    ・エアコン等、使用時に温室効果ガスを直接排出する製品における排出量
  • 間接使用段階排出
    ・衣料(洗濯・乾燥が必要)、食料(調理・冷蔵・冷凍が必要)等、製品使用時に間接的に電気・燃料・熱を使用する製品のエネルギー起源のCO2排出量

この内、直接使用段階排出は必ず算定対象に入れます。間接使用段階排出については排出規模や削減可能性等の観点から重要な場合には算定対象に入れます。
*中古販売が事業に含まれない場合、下取り後の製品の排出量は算定対象外になります。

使用時における算定に当たっては販売数量と使用時のエネルギー消費量を基に算定することになります。なお、使用時のエネルギー消費量は消費者による製品使用についての標準的なシナリオ(使用条件)を仮定して算定しますが、仮定するシナリオによって消費量が大きく異なることに注意が必要です。

カテゴリ12 販売した製品の破棄

算定範囲は自社が製造または販売している製品本体と製品に付属している容器や包装の破棄と処理の際に生じる排出量となります。
カテゴリ5と同様に、製品がリサイクルされずに破棄される場合は廃棄処理での排出、リサイクルされる場合は律サイクル処理の排出を算定する必要がありますが、リサイクル後のフローの把握は現実的に不可能なため、一定の範囲で区切る必要があります。一般的には以下の図のように区切ることになります。

算定についてもカテゴリ5と同様に以下の2つの方法があります。

  1. 廃棄物の処理・リサイクル量を活動量として品目別、処理方法別に算定する方法
  2. 処理委託費用(委託量)を活動量として用いる方法

カテゴリ13 リース資産(下流)

自社が賃貸事業として所有し、他者に賃貸しているリース資産の運用に伴う排出を算定対象とします。ただし、当該排出が自社のScope1、2の算定対象となっている場合は算定範囲から除きます。
なお、リース資産を他者から賃借している場合については、カテゴリ8での算定となります。

リース資産の運用に伴う排出を算定する際には、カテゴリ8と同様に賃貸事業者と賃借事業者における各Scope間でダブルカウントが生じないようにすることが重要です。

また、一部のケースでは、顧客に販売した製品(カテゴリ11として算定)と顧客にリースした製品(カテゴリ13として算定)を区別することに意味がない場合があります。こののような場合は顧客にリースした製品について、顧客に販売した製品と同様の方法で算定することが可能です。この場合もカテゴリ11(販売した製品の使用)とカテゴリ13(下流リース資産)との間でダブルカウントが生じないようにします。

排出量の算定は賃貸しているリース資産ごとに算定して足し上げることになります。この際の活動量はオフィスであれば電力使用量、トラックなどの車両であれば燃料消費量となります。


1.リース資産ごとにエネルギー種別と消費量が分かっている場合
エネルギー種別ごとの消費量を原単位として、エネルギー種別ごとの排出原単位を使って算定します

2.リース資産ごとにエネルギー消費量が分かっているが、エネルギー種別の割合が不明の場合
エネルギー消費量を原単位として、エネルギー種別に加重平均した排出原単位を使って算定します

3.上記の方法が難しい場合(建物)
賃貸している建物の床面積と単位面積当たりの排出原単位を使って算定します

オフィスビルのテナントの賃貸などのように、自社が保有している資産が建物全体の一部分であり、そのエネルギー消費量を按分する必要がある場合には、面積比率などを用いてエネルギー消費量を按分します。

カテゴリ14 フランチャイズ

自社がフランチャイズ主宰者である場合、フランチャイズ加盟者(フランチャイズ契約を締結している事業者)におけるScope1、2の排出量が算定対象範囲になります。ただし、フランチャイズ契約を締結している事業者のうち、資本関係などがあり、自社の事業としてScope1、2 で既に計上している範囲を除きます。
フランチャイズの範囲は算定・報告・公表制度で算定対象としている特定連鎖化事業者で定義されていますが、対象となっていないフランチャイズ加盟者が使用する車両による燃料使用等フランチャイズ加盟者のその他のScope1、2排出も対象とするのが望まれています。

一方で、自社がフランチャイズ加盟者側の場合、フランチャイズ主宰者のScope1、2の排出量を、任意でカテゴリ1(購入した物品・サービス)として算定することが出来ます。

*特定連鎖化事業者
特定連鎖化事業者とは、フランチャイズチェーン事業(連鎖化事業)を行う事業者が加盟者とエネルギーの使用等に関する定めがある約款等を交わしており、自身の設置する工場等と加盟者の設置する工場等における原油換算エネルギー使用量の合計が1,500kl以上となる事業者

カテゴリ15 投資

算定対象は算定期間における投資(株式投資、債券投資、プロジェクトファイナンスなど)の運用に関連する排出量となります。このカテゴリは民間金融機関(商業銀行など)のような投資事業者(利益を得るために投資を行う事業者)や金融サービスを提供する事業者に適用されます。

投資の範囲

ガイドラインにおいて金融投資は以下の4つに分類されています。これらの内、債券投資の一部や管理投資および顧客サービス、および4つの分類に入らない投資は現時点では算定が任意となっています、

  • 株式投資
    事業者自身の資本とバランスシートを使用して事業者が行う株式投資
    ・財務支配力(通常 50%超の所有権)を有している場合=子会社(またはグループ会社)への株式投資
    ・大きな影響力を持つが財務支配力を有していない場合(通常 20~50%超の所有権)=関連会社(または系列会社への株式投資)
    ・パートナーが共同財務支配力を持つ場合=合弁会社等への株式投資
    ・財務支配力も多大な影響力も持たない場合=事業者自身の資本とバランスシートを使用して行う株式投資
  • 債券投資(一部が任意算定対象)
    ・社債金融商品(債権、転換前の転換社債など)を含め、既知の収益使用により、事業者のポートフォリオに保有している社債
    ・収益の使用が特定されない一般的な事業者目的で事業者のポートフォリオに保有される保有債券(債権、貸付など)は任意算定
  • プロジェクトファイナンス
    ・株式投資者(出資者)または債券投資者(金融業者)としてのプロジェクトへの長期融資
    (プロジェクト由来の Scope1、2 に相当する排出量を持分比率に応じて毎年計上する。なお、初期の出資者は、プロジェクト全体の排出像を示すため、投資した年にプロジェクト期間中の生涯排出量を算定して Scope3とは区別して一括で報告する)
  • 管理投資および顧客サービス(任意算定対象)
    顧客のために事業者が管理する投資(顧客の資産を使用)または事業者が顧客に提供するサービス
    ・投資・資産管理(顧客の資産を使用して、顧客のために管理する株式または確定利付ファンド)
    ・株式投資または借入資本を求める顧客のための事業者引受および発行
    ・M&A にかかわる支援を求める、あるいはその他の顧問サービスを必要とする顧客に対する財務顧問サービス

算定方法

算定方法として2つの方法があります。

1.被投資者から得た投資別のScope1、Scope2の排出量を投資持分比率に応じて積み上げて算定する方法
*株式投資の場合は会社の排出量を株式の持ち分に応じて按分
*債権投資の場合は会社の排出量を資本の持ち分に応じて按分
*プロジェクト投資の場合はプロジェクトの排出量を持ち分に応じて按分
2.経済データを用いて投資からの排出量を推計する方法
*株式投資額を活動量とし、投資部門の排出原単位を用いて算定
*債券投資額を活動量とし、投資部門の排出原単位を用いて算定
*プロジェクトへの総投資額を活動量とし、投資部門の排出原単位を用いて算定

その他

このカテゴリには、事業者の従業員や消費者の家庭での日常生活における排出や、組織境界に含まれない資産の使用に伴う排出、会議、イベント参加者の交通機関からの排出などが挙げられます。このカテゴリはオプションの算定範囲となります。

assimeeは、製造プロセスや物流プロセスをモデル化し、シミュレーション結果を活用して、現実に即したサプライチェーンの排出量を正確に算定することが可能です。近年では、生産技術の担当範囲が拡大しており、カーボンニュートラルに向けた排出量の算定業務も生産技術が担当するケースが増加しています。このように業務増加によって、負担が大きくなっている担当者様、複雑な算定業務でお悩みの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。