在庫量見積もり方法の解説

概要

今回の記事では、在庫の最適量を決めたいという課題をassimeeのシミュレーション使って効率的に解決する方法について解説します。前回の記事ではassimeeを使うことで生産目標を達成するのに必要な人員数を決定しました。今回はassimeeを活用して在庫の計算を行ってみます。ここでいう在庫とは適正在庫のことを指し、これは欠品を出さずに企業利益を最大にする最小限の在庫数のことです。適正在庫は欠品を防ぐための安全在庫と季節要因や波動需要を吸収するためのサイクル在庫からなっていますが、今回の記事では安全在庫の計算にassimeeを活用する方法について説明します。

モデル

前回の記事と同様に入荷する3つの部品から製品の組み立てを行い、出荷するラインを考えます。モデル内の「001入荷」を在庫置き場からの出庫と考えることで、このラインが必要とする部品の数を計算することが出来ます。
*モデルに配置されるカードは前回と同様ですが、3か所の部品の加工プロセス(「009駆動部品チェック」、「026内装部品加工」、「030外装部品加工」)の作業人数が前回の最適化の結果を参考に変更します。

パラメーターの修正

009駆動部品チェック:
1回あたりの処理時間を「20分」、作業人数を「45人」と設定、
対象パーツ名称を「駆動部品」、個数を「1個」、
出力パーツ名称を「チェック済駆動部品」、個数を「1個」と設定

026内装部品加工:
1回あたりの処理時間を「10分」、作業人数を「22人」と設定、
対象パーツ名称を「内装部品」、個数を「1個」、
出力パーツ名称を「加工済内装部品」、個数を「1個」と設定

030外装部品加工:
1回あたりの処理時間を「5分」、作業人数を「11人」と設定、
対象パーツ名称を「外装部品」、個数を「1個」、
出力パーツ名称を「加工済外装部品」、個数を「1個」と設定

シミュレーション結果

今回のモデルのシミュレーション結果は以下のようになります。生産目標を達成できていることが分かると思います。生産目標を60分で120個から変更する場合は前回の記事の方法で、再度ラインの人数を調整します。

このモデルでは適切に人員を配置すれば、駆動部品が1個、内装部品が1個、外装部品が1個から1個の製品が出荷されます。また「024出荷」、「035出荷」で不良品の出荷がどうなっているかを確認します。「024出荷」は製品の不良品、「035出荷」は部品の不良品(3種類の部品数の和)が出荷されています。

生産プロセスが問題なく動いていること、ある程度の不良品が出荷されていることがシミュレーション結果から分かります。*入荷の際の不良品の発生がランダム変数を含むため、完全に一致しないことがあります。
ここから、例えば60分で120個の製品を出荷するためには、製品の不良品を大まかに見積もって60分間に132個の製品を作る必要があります。これに部品の不良品数を考慮すると、出荷したい製品数の20%増しに当たる、駆動部品150個、内装部品150個、外装部品150個ほど在庫置き場から出庫する必要があることが分かります。これを前提に生産計画を立ててみましょう。

生産計画と在庫の計算

assimeeを使えば、ラインのモデルを使って将来の生産計画を簡単にシミュレーション出来ます。シミュレーション結果から目標生産数に対する必要な部品数や在庫を計算することも可能です。ここでは例として10日間の生産計画から、それに対して必要な安全在庫数を計算してみましょう。

安全在庫は次の計算式で計算します。

  • 安全在庫=安全係数(1.65)×使用量の標準偏差×√(発注リードタイム+発注間隔)

安全係数1.65は欠品率(100回の発注に対して何回の欠品を受容するか)5%に対する係数で、安全在庫を計算するために一般的に使われる値です。欠品率をこれより低くする場合、安全係数はより大きくなります。
今回、計算の簡単のために発注リードタイムを1日、発注間隔を3日とします。不良品率を考えると出荷に対して使用する部品は20%増しが必要だということが分かっています。一方で、立ち上げのための時間(シミュレーション結果の図の最初が下がっているのは、今回のモデルでは仕掛在庫がなく部品を運搬する時間や、それを加工が待たないといけない時間があるためです)は今回は無視できる値なので考えないことにします。*待ち時間による生産の落ち込みは途中の在庫置き場に仕掛かり品(在庫)を用意することで回避できます。

以上を考えて以下の表のような生産計画表を考えました。加えて予定に対する出荷実績を並べました。また、今回のモデルでは製品1個に対して駆動部品1個、内装部品1個、外装部品1個が必要なため、必要な部品数は以下の通りとなります。それではこの表の出荷実績から安全在庫を計算してみましょう

出荷予定数出荷実績数使用する
駆動部品数
使用する
内装部品数
使用する
外装部品数
1日目960960115211521152
2日目960960115211521152
3日目960720864864864
4日目960720864864864
5日目960960115211521152
6日目960960115211521152
7日目960960115211521152
8日目9601200144014401440
9日目9601200144014401440
10日目960960115211521152
平均960115211521152
標準偏差160182182182

計算の結果、上表の10日間の生産計画と実績に従った場合に必要な部品量の標準偏差は182となりました。ここから生産計画で起きている変動を考えた安全在庫を計算式に従って計算すると633個となります。3日間隔の部品発注(リードタイム1日)の条件では、初日に633個の在庫を手配しておけば、欠品の可能性を5%以下に抑えることが出来ることが分かりました。

まとめ

今回はシミュレーションを活用して生産計画に必要な部品数を計算しました。今回の記事のようにassimeeは人員数や在庫置き場の容量だけでなく、安全在庫の計算に活用することが出来ます。事前にassimeeでモデルを作ってさえおけば、不良品率やラインの生産能力の加味といった複雑な計算をしなくても、シミュレーションを行うだけで出荷目標に対して必要な部品数が計算できます。このことは、これまで熟練者の経験や勘に頼る分が多かった在庫計算を誰でも簡単に行えることに繋がります。
今回は安全在庫をきわめて簡略した形で計算しましたが、この安全在庫が本当に安全なのかをassimeeを使って実際にシミュレーションでテストする記事を予定しています。ご期待ください。

assimeeでは、実際の製造プロセスをモデル化し、シミュレーションすることで、プロセスの見える化や潜在的な課題の洗い出しを行うことができます。製造プロセスのデジタル化や課題解決でお悩みの方は、ぜひお問い合わせください。

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