概要
カーボンフットプリント(CFP)とはCarbon Footprint of Productの略語です。直訳すると「炭素の足跡」となり、製品やサービスの原材料調達から廃棄、リサイクルに⾄るまでのライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガス(GHG)をライフサイクルアセスメント(LSA)的な手法によって計算した総量となります。また、GHGの排出量を製品のタグや表面に表⽰する仕組みのことを指します。カーボンニュートラルを推進するためには、国や企業の調達、消費者の購入、企業への投資などの際に脱炭素・低炭素製品(グリーン製品)が選択されるような市場を創り出していく必要があり、その基盤として製品やサービスの提供に伴うGHGの排出量を「⾒える化」する仕組みが不可⽋とされています。また、製品・サービス単位で計算される排出量(CFP)が正確に把握できれば、3つのScope、特にScope3の計算においてGHG排出量の計測を容易に精緻化すること、企業が自社のサプライチェーン上で、GHGの排出量が多く優先的に取り組むべき工程を把握することに繋がります。
2023年5月に経済産業省と環境省から公表されたカーボンフットプリントガイドラインはISO14067:2018などの国際規格に従ってCFPを計算する際の流れを解説しています。下図はガイドラインから引用したCFPを計算する際の4つのSTEPを解説しています。
この中で重要なのはStep2の算定ルール(対象と範囲)の決定、Step3のCFP算定のための活動量と排出係数の決定と考えられます。
特に製品別算定ルールは同様の製品間で公平な比較を行うために重要です。ルールがない場合、企業は独自の自社ルールを元に算定することになりますが、ISO14067:2018の算定ルールに従っていても、算定範囲や対象が異なる可能性があり、直接比較を行うには適していません。
活動量と排出係数は既にデータベース化されている標準的な2次データと企業が直接に測定を行って使用する1次データがあります。供給側のGHG排出量削減努力を反映するには2次データではなく、1次データを利用するべきですが、測定に手間がかかるという問題があります。
現状でCFPの算定には、ISOやGHGプロトコルといった算定の国際的な基準が存在するが、解釈の余地があること、データベース(2次データ)を使ったCFP算定が主流で1次データが必ずしも使われていないこと、計算に利用可能な排出係数データベースの整備、製品別・業界別のCFP算定ルールの策定、人材の育成等、実際の運用に向けて解決しなければならない課題が数多く存在しています。
ライフサイクルアセスメント(LCA)とは?
LCAとはライフサイクルアセスメント(Life Cycle Assessment)のことで、工業製品や農業製品、サービスのライフサイクル(資源調達ー原料生産―製品生産―流通と消費―廃棄とリサイクル)全体、またはその特定段階における環境負荷を定量的、かつ多角的に評価する手法となります。これにより、複数の製品から選ぶ際に製品の環境負荷を消費者が判断する材料が提供されます。企業にとっても自社を製品が業界平均と比較することで、環境負荷が低いなどをアピールすることが可能となります。また、古紙やプラスチックのようにリサイクルを行った製品が、必ずしも新しい紙を使った製品より環境負荷が低い訳ではないことなども判明します。LCAの実施や環境負荷の計算方法はISO14040:2006によって国際規格化されています。CFPとの違いはCFPがGHGのみを対象としているのに対して、LCAは資源の枯渇などGHG以外も対象に含めている点が異なります。
CFPの活用
近年、世界で気候変動問題への関⼼の⾼まっており、企業を取り巻く多様なステークホルダーが、様々な⽬的からCFPの開示を企業に要請し始めています。代表的なケースでは政府による公共調達にCFPの開示を要求し、排出量の少ない製品・サービスを選択するグリーン調達や、投資や銀行貸付の際の審査、証券取引所の上場企業に対するGHG 排出量(Scope1/2/3)及び排出量関連リスクが開示の義務化など、CFPは企業の競争⼒や存在を左右するものになりつつあります。また、国による規制では、以下のような例が挙げられます。
米国
- 公共工事の際にCFPの少ない建材の使用を促すためEPD(Environmental Product Declarations、環境製品宣言)の取得とCFPの上限値を超えない建材の使用を義務付け
- 電子機器の公共調達の際にEPEAT(Electronic Product Environmental Assessment Tool)登録商品を95%以上にすることを宣言
- 公共調達に際しLEED(Leadership in Energy & Environmental Design、建築物の環境性能を客観的に評価する認証プログラム)を義務化
EU
- 炭素国境調整措置(CBAM)により気候変動対策が不十分な輸入品に炭素税を課税
- バッテリー製造に対してCFPの申告と上限値の設定を規定
- EUへ製品を輸出する企業は、カーボンフットプリントを報告することが義務化
- 食品に対してCFPとサステナビリティなどのスコアリングルールの導入予定
- 衣料品と靴の環境フットプリント表示のための算定ルール(PEFCR)が作られる予定
*環境フットプリントはGHGに加えて自然(陸、海、淡水、大気)への環境影響を14項目で算定した数値
日本
- グリーン購入法に環境物品の調達の推進に関する基本方針として、ライフサイクル全体にわたる環境負荷を低減することを明記
- 前述の通り、カーボンフットプリントを簡単に算出するために必要な製品別算定ルール、エネルギー排出係数の策定、1次データの利活用の拡大検討、グリーン調達の拡大、中小企業の取組支援を実施中
*製品別の算定ルールやエネルギー排出係数がない場合、企業は独自にCFPを算定するルールを決めた上で算定する必要有
このような動きが広がると企業が部品や原料の調達に際して、サプライチェーンの上流側の企業に部品や原料のCFPの提出を要求することが容易に想定されます。
assimeeは、製造プロセスや物流プロセスをモデル化し、シミュレーション結果を活用して、現実に即したサプライチェーンの排出量を正確に算定することが可能です。近年では、生産技術の担当範囲が拡大しており、カーボンニュートラルに向けた排出量の算定業務も生産技術が担当するケースが増加しています。このように業務増加によって、負担が大きくなっている担当者様、複雑な算定業務でお悩みの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。