概要
今回の記事では物流業の業種別解説を基に物流業のサプライチェーン排出量の算定例について解説します。一般的な製造業にとってのサプライチェーン排出量とは荷主企業の製品原料の調達から製品の消費者への輸送まで(サプライチェーン)に加えて、製品の使用と廃棄までが含まれます。一方で物流業にとってのサプライチェーン排出量は物流業者が提供する物流サービス(包装材)の原材料調達と物流サービスの提供を指し、製品が存在しない代わりに、物流サービス提供の際に付加した包装材の使用と破棄までを含みます。
*対象となる物流業は日本標準産業分類でいう運輸業のうち、貨物に関する事業である以下のものを含みます。
- 鉄道業(うち貨物の運送業)
- 道路貨物運送業
- 水運業(うち貨物の運送業)
- 航空運送業
- 倉庫業
- 貨物運送取扱業
- 港湾運送業
各Scopeの考え方
基本的には前回解説した通り温室効果ガスの算定・報告・公表制度および基本ガイドラインに従って算定を行います。以下は物流業における補足情報について解説しています。
Scope1
国内および海外において自社が所有または支配する事業からの排出量を算定します。算定対象には物流拠点やオフィス等での都市ガスやLPGの使用、自社保有の車両、船舶等による輸送に伴う軽油や重油の燃料としての使用、荷役機械での軽油やLPGの燃料としての使用、自家用車によるガソリンの使用等の全てが対象となります。また、賃貸借契約に基づき荷捌き場や倉庫、ビルのテナントとして入居している場合は、エネルギー管理権原の範囲に応じて排出量をオーナーと按分することによりダブルカウントを最小限にしています。基本的には算定・報告・公表制度に基づいて算定を行いますが、制度の対象外となる冷却剤としてのドライアイスの使用や下水・し尿などの処理に伴うメタンや一酸化二窒素の発生、エアコンの使用・整備・破棄によるフルオロカーボン(HFC)の排出なども算定することが望ましいとされています。
自社車両、船舶、航空機の場合、燃料の使用量が直接把握できる他、全て自社業務内で使用されているため基本的には燃料法を用いて算定します。なお、バイオ燃料を使用する場合は混合率から化石燃料分だけを抽出して排出量を計算します(バイオ燃料の排出量はゼロ扱い)。
Scope2
国内および海外において自社が購入した熱・電力の使用に伴う排出として、物流拠点やオフィス、自動車、荷役機械等での熱・電力の使用全てを対象とするほか、エネルギー管理権原に基づいて按分を行うのもScope1と同様です。
Scope3
カテゴリ1 購入した製品・サービス
自社の事業活動のうち外部に委託しているサービスの排出量、自社が直接購入して使用または貸与している全ての物品の資源採取段階から製造段階までの排出量を算定対象としています。一方で外部に委託しているサービスのうち、顧客に販売するサービスの一部を構成しない物流(購入した物品の調達物流等)については、カテゴリ4の対象範囲となります。また、資本財の購入に関する委託はカテゴリ2の対象範囲となります。それら以外の外部委託サービス(保守・修繕等)において使用したエネルギーや原材料等からの排出はカテゴリ1の対象となっています。
輸送委託の算定については燃料法、燃費法、トンキロ法のいずれかを用いて算定します。段ボールの購入など1つ1つの排出を把握するのが困難な場合はガイドラインの考え方と同様に購入金額や購入量を基に算定することになります。
カテゴリ2 資本財
営業活動や販売活動、輸送活動のための車両を保有している場合、車両の製造及び自社への納入までの輸送についてはカテゴリ2の対象ですが、車両を使用したことによる排出はカテゴリ2の対象外となるのでScope1で算定してください。
カテゴリ4 輸送、配送(上流)
以下は算定対象となる物流例です
- 購入した包装材・事務用品等の取引先から自社物流拠点までの輸送
- 包装材・事務用品等を保管する倉庫(自社施設以外の場合)での保管・荷役
- 輸送区間内における、物流センターのような短時間で荷物が通過していく通過型物流拠点(トランスファーセンター)や流通加工を含む物流センターでの荷役と保管
- 購入する物品の輸送のために使用した包装材を廃棄する際の輸送・処理(カテゴリ5で算定対象としないもの)
カテゴリ5 事業から出る廃棄物
以下が算定対象となる廃棄物の例となります。
・自社の輸送等業務活動から発生する廃棄物
- 廃棄される自社保有車両
- 事業活動を行うに当たり、包装材として利用されていた段ボール、パレット等の廃棄物
- 荷物の輸送にあたり貼付される伝票類のうち、自社で廃棄する部分
- トラック、フォークリフト、コンテナ等の保管設備、荷役機器などに利用されていた金属くず、廃プラスチックや紙くずなどの廃棄物
- 解体された物流拠点等の建築廃棄物
包装材については自社購入であっても廃棄するのが、他社(荷主、着荷主)の場合はカテゴリ12(販売した製品の廃棄)、他社(荷主、上流側)購入であっても自社で廃棄する場合はカテゴリ5として算定する必要があります。一方で、他社(荷主、上流側)購入だが、届け先(個人など)が廃棄する場合は算定対象外となります。
・自社のその他の事業活動から発生する廃棄物
- オフィスから排出される事務用品等の廃プラスチックや紙ごみなどの廃棄物
その他
物流業では、組織境界に含まれない資産(荷役機械等)を借りて作業を行うことがあります。例えば、港湾運送業における港湾での荷役機械(ガントリークレーン等)の借用による作業の実施は算定対象外となります。
算定例
算定例その1 委託輸送を対象とした燃費法による算定
トラックを使って拠点AからCの間の委託輸送をおこなうことを想定します。以下の例のように5つの手順を使って排出量を算定します。
1.拠点間距離
まず拠点間の走行距離と便数、車種などを把握します。
– | 拠点A | 拠点B | 拠点C |
拠点A | – | 100km | 125km |
拠点B | 100km | – | 169km |
拠点C | 125km | 169km | – |
2. 便数
今回の例では4トン車、10トン車、トレーラーを使用すると想定しています。そのうち、ある1台の4トン車が1年間に拠点間を輸送する便の数は以下の表の通りとなりました。
4トン車 | 拠点A | 拠点B | 拠点C |
拠点A | – | 324 | 521 |
拠点B | 295 | – | 148 |
拠点C | 488 | 86 | – |
3. 1年間の便数と走行距離
輸送便に使ったすべてのトラックの便数の和と拠点間の距離から走行距離を計算します。
便数 | 走行距離(km) | |
4トン車 | 1,025,585 | 330,870,255 |
10トン車 | 3,160,080 | 715,225,159 |
トレーラー | 300,500 | 50,586,129 |
4. 燃費の設定
今回は実際の各トラックの燃費は把握できていないので、算定報告マニュアル記載の代表値を使用します。
車種 | 最大積載量(kg) | 燃費(軽油)(km/l) |
4トン車 | 2,000~3,999 | 4.58 |
10トン車 | 8,000~9,999 | 3.09 |
トレーラー | 12,000~16,999 | 2.62 |
5. 排出量の算定
走行距離と燃費を使って、輸送に使用された軽油の量を計算、単位発熱量と排出量を掛けることでCO2の排出量が以下のように算定されます。
排出量=走行距離 / 燃費 × 単位発熱量 × 排出係数 × (44/12)
車種 | 走行距離(km) | 燃費(kl) | 単位発熱量(軽油)(GJ/kl) | 排出係数(軽油) (tC/GJ) | 排出量(tCO2) |
4トン車 | 330,870,250 | 4.58 | 37.7 | 0.0187 | 186,44 |
10トン車 | 715,225,159 | 3,09 | 同上 | 同上 | 598,327 |
トレーラー | 50,586,129 | 2,62 | 同上 | 同上 | 49,910 |
算定例その2 委託輸送を対象とした荷物1個当たりの排出量からの算定
本来は全国の数値を全て把握して算定しますが、一部の地域でのみ敗走距離や燃料使用量、荷物数といったデータが入手可能な場合、以下のように荷物1個当たりの排出量を求めることで推定することが出来ます。
配送実績 | 配送距離(km) | 燃料使用量(l) | 荷物数(個) | CO2排出量 (kgCO2/日) | 荷物1個当たりのCO2排出量 (gCO2/個) |
1 | 38.80 | 3.56 | 99 | 8.25 | 83.38 |
2 | 21.49 | 1.97 | 116 | 4.57 | 39.41 |
… | |||||
100 | 43.14 | 3.96 | 53 | 9.18 | 173.17 |
上表のように例えば、100回の配送実績と各データから荷物1個当たりのCO2排出量の平均を計算し、57.2g CO2/個となったとします。この業務において全国で配送している荷物が128,589,211個であれば、7,355 tCO2と計算することが可能となります。*配送の環境が地域間で大きく異なる場合は、誤差が大きくなることが考えられるので注意が必要です。
算定例その3 送り状破棄の際の排出量の算定
4枚綴りの送り状(差出人控、集荷実績、発送実績、受取人控)を想定し、差出人(発荷主)や受取人(着荷主)に引き渡す分(2枚)を考慮して送り状の破棄の際の排出量を算定します。
4枚の算定範囲は以下の通りになります。
枚目 | 役割 | 引き渡し先 | 算定範囲 |
1 | 差出人控 | 差出人(発荷主) | カテゴリ12 |
2 | 集荷実績 | 物流事業者保管 | カテゴリ5 |
3 | 発送実績 | 物流事業者保管 | カテゴリ5 |
4 | 受取人控 | 受取人(着荷主) | カテゴリ12 |
送り状全体が10gとすると、物流事業者保管は半分であるので、5 gがカテゴリ5、残りの5 gはカテゴリ12で算定することになります。
1年間に使用する送り状が128,665,332式だとすると、破棄される送り状の重量は以下の通りに算定されます。
10g/式×128,665,332 式×2 枚/4 枚 = 643 t
破棄される送り状の重量から排出量を算定します。今、排出原単位を0.206(tCO2/t)とすると排出量は以下のように算定されます。
643 t×0.206 tCO2/t = 132 tCO2
まとめ
今回は、ガイドラインの補足となる物流業に対する業種別解説を参考に、実際の計算例について解説しました。排出量の計算には計算事例で挙げたように活動量と対応する排出係数の選択が必要ですが、assimeeではScope1、Scope2およびScope3の内、輸送(カテゴリ4)と雇用者の通勤による排出(カテゴリ6)において算定対象の活動量を選択と自動で排出係数を選ぶようにすることで、排出係数の選択の手間を削減し、計算を容易としています。
assimeeは、製造プロセスや物流プロセスをモデル化し、シミュレーション結果を活用して、現実に即したサプライチェーンの排出量を正確に算定することが可能です。近年では、生産技術の担当範囲が拡大しており、カーボンニュートラルに向けた排出量の算定業務も生産技術が担当するケースが増加しています。このように業務増加によって、負担が大きくなっている担当者様、複雑な算定業務でお悩みの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。